コンテンツにスキップ

研究分野

Abstract

地球観測衛星が取得する膨大なデータセットから適切に情報を抽出するためのデータ解析手法、将来ミッションで必要とされるリモートセンシング技術や正確なデータを得るための校正技術、および、大気科学を軸とした地球環境に関する研究を進めています。

データ解析手法の研究

1970年代頃から始まった人工衛星による地球観測は各国の様々な機関により継承され、長いものでは40年規模のデータが蓄積されています。これにより、北極海氷面積の減少など地球規模の気候変動の一端を捉え始めています。また、観測センサの空間・時間分解能の向上、波長情報の拡充、コンステレーション化による衛星数の増大、および新しい観測技術の進展などにより、データの多様化と大容量化が顕著になっています。このような膨大なデータセットから適切に情報を抽出するため、複数の衛星・センサ間の相互校正や、深層学習などの機械学習手法の適用に関する研究を行っています。下図は、ひまわり8号の赤外輝度温度を入力データ、地上降水レーダによる降水域を教師データとして畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を学習し、降水域の推定を行った研究例です(2019年度修了:岸田侑子)。

地震・火山などの自然現象による地殻変動や人的要因による地盤沈下などの測定に対し、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar, SAR)の位相情報を用いる干渉SAR解析の応用が進められています。全球測位衛星システム(GNSS)データや気象モデル出力を用いた大気遅延補正等の手法確立や高度化に関する研究を行います。下図は、陸域観測技術衛星ALOS搭載PALSARデータを用いた干渉SAR解析による千葉県付近の地盤沈下の解析例です。GNSSデータを用いた補正により誤差を軽減しています(2019年度修了:青戸亮太、原初PALSARデータ©JAXA,METI)。

リモートセンシング技術の研究

新たな知見の獲得には衛星搭載機器の発展が不可欠です。将来ミッションで必要とされるセンシング技術や、正確なデータを得るための校正技術に関する研究を行います。将来のマイクロ波放射計では、空間分解能向上のためのアンテナ大口径化や人工電波干渉回避手段の実装などが必要と考えられます。電子的ビーム走査や波長選択による電波干渉回避を目指し、マイクロ波放射計のデジタル化について研究を行います。下図左はAMSR2のCバンドで観測される北米大陸における人工電波の影響を示します。赤い領域は人間活動に起因する電波の影響を受けており、正確な土壌水分量の計測を困難にしています。国境付近で傾向が大きく変化する事実が、人工的な現象であることを明瞭に示唆しています。下図右はNASAのSMAP衛星であり、軽量の展開型メッシュアンテナ(開口径6m)により物理的な回転走査を実現しました。しかし、さらに大口径のアンテナの物理的走査は困難であり、電子的な走査が必要と考えられます。

衛星搭載機器だけでなく地上測器の工夫も必要です。GNSSから送信される電波の大気中での遅延や海面反射を計測することにより、地球大気・海洋の計測を行うことができますが、近年進展が目覚ましい低コスト受信機を用いることで、さらに高密度な観測網の実現が可能と考えて検討を進めています。

地球観測センサの出力は電圧などの工学値を変換したデジタル値であり、これを校正によって対象の明るさなどの基本的な物理量に変換します。開発・製造時に綿密な校正試験が行われますが、打ち上げ時の振動による特性変化や過酷な宇宙環境による経年変化が生じます。特に精緻な計測を必要とする長期気候変動については、この校正プロセスの誤差や時間安定性がミッションの成否を直接左右すると言っても過言ではありません。マイクロ波放射計のデータ再処理等を通じて校正技術の研究を行います。

地球環境研究

全球を偏りなく定期的に網羅できる人工衛星観測は、地球規模の気候・環境に関する重要なデータを提供しています。マイクロ波放射計、降水レーダ、可視赤外放射計などのデータから、大気圏では水蒸気量、降水量、雲物理量など、海洋圏では海面水温、海面塩分、海上風速など、陸圏では土壌水分量、積雪水量など水に関する諸量を得ることができます。多様な人工衛星データの時空間解析により、地球の水循環や雲・降水システムの特性把握など、大気科学を中心とした地球環境研究を進めます。下図は月平均の海面塩分(左)と淡水フラックス(右)です(2017年度修了:Khanpanya Thanarporn)。海面塩分はNASAのAquarius衛星、淡水フラックスはマイクロ波放射計のデータから得られました。淡水フラックスは降水と蒸発などによる正味の淡水収支のことです。淡水の供給が多いと海水が薄められ海面塩分は減少する傾向にありますが、南シナ海では大河川からの淡水流入もあり、さらに複雑な環境となっています。

下図は、日本列島で猛暑の続いた2018年7月10日〜8月9日における、ひまわり8号の赤外輝度温度の日変化振幅[K]を示したものです(2018年度卒業:Sharon Ludai Anak Sigat)。陸地では都市部や盆地などで日変化が大きく森林域で小さいこと、海洋では日変化が小さいことが明瞭に示されています。ひまわり8号は日本域を2.5分間隔という高頻度で観測できるため、データの平均化により雲の影響を低減した統計を調べることができます。

人工衛星データは日々の天気予報や黄砂予測などに組み込まれ、様々な分野で本質的な役割を担っています。しかし、人工衛星データの実社会への貢献例はまだまだ多いとは言えません。人工衛星データから得られる情報と、エンドユーザが必要とする情報との間には、未だ情報の質や時間・空間分解能などの点で乖離があり、これをつなぐための研究が必要です。下図左は、山口大学常盤キャンパス厚生棟屋上の太陽光発電装置、右はひまわり8号データからサポートベクターマシンにより推定した日射量と太陽光発電装置の発電量です(2016年度卒業:米盛航、日射計・太陽光発電装置のデータは情報基盤センター提供)。日射計を装備しない多くの太陽光発電サイトにおける発電装置の健全性把握への利用を議論しました。